岩波ホールがコロナで経営困難に陥り、7月で閉館するそうです。残念! 私は1980年前半頃から同ホールに通い始め、インド、キューバ、チリ、ポーランド、イラン、中国といった、当時は(今でも?)日本であまりお目にかかれない国々の映画をワクワクしながら観たものです。・・・というわけで、もしかしたら、これが見納めかもしれないと思いつつ岩波ホールに足を運び、上映中の映画『メイド・イン・バングラデシュ』を観ました。チラシにはこう書かれています――世界の繊維産業を支えるバングラデシュ。縫製工場で働く80%が女性で平均年齢は25歳!過酷な環境と低賃金――そこで働く女性がたったひとり立ち上がる!
ところで、東南アジアの教育支援をしているNGOに勤務していた2014年、経済的に貧しい家庭の親子を調査しにカンボジアに何度目かの出張をしました。朝早く、車で首都プノンペンから地方へ向かうと対向車線を、排気ガスや砂塵を防ぐため口に手ぬぐいなどをまいた、立ったままの若い女性をぎっしり乗せたトラックが何台も何台も通り過ぎます。首都またはその近郊にある縫製工場や靴工場に向かうトラックです。彼女たちが手にする月給110ドル(当時)でしたが、家賃50ドル、食費45ドル(0.5ドル×3回/1日×30日)、トラックの通勤費用15ドルで収入がすべて消えてしまい、光熱費や社会保障などは払えません。もちろんおこずかいもありません。これでは生活できないと前年、労働者が月180ドルを要求してデモをはじめ、それがだんだん大きくなって国を揺るがす大争議になり、ついに軍隊が出動して3人が死亡。賃金は130ドルになりました。私が地方でインタビューをしたお母さんは「工場に働きに出た娘から仕送りが来ると思ったら、逆に生活できないからお米を送ってほしいと言われた」とがっかりした顔つきでした。また中学校の先生は「近くに工場ができると、ちょっと体が大きい女の子は家計を助けるため、役人に袖の下を使って年齢をごまかす証明書を作成し、学校を辞めて工場で働き始めてしまう」と嘆いていました。
『メイド・イン・バングラデシュ』の主人公シムは若い女性労働者。13(14?)歳の時、継母から40歳の男性と結婚するように言われて家を飛び出し、職を転々として現在の縫製工場で働いています。しかし残業代もろくに出ず、夫は失業中で家賃の支払いもままなりません。それで、工場の火災を機に知り合った新聞記者兼地域活動家(?)から労働組合結成を促されます。その際、シムは一人で月1,650枚のTシャツを作っているが、給料は外国(先進国)で販売しているTシャツの価格の2~3枚分に過ぎない等といわれます。シムら女性労働者たちは労働組合結成を決心しますが、案の定、工場幹部からの嫌がらせや解雇の脅し、さらに組合設立を申請した国の役所の幹部から「上から圧力があり、許可できない」と言われます(この映画を紹介したある週刊誌の記事によると、バングラデシュの国会議員の30%は衣料工場の経営者だそうです)。この映画は実話に基づいていて、映画監督(女性)は「映画の95%は事実です」と語っています。だからでしょうか、この映画はバングラデシュ国内で上映禁止でしたが、近年ようやく上映が許可されたそうです。労働組合設立の許可が下りる最後の場面は話の展開が性急で唐突でしたが、貧民街の雰囲気はよく出ていました。何よりも、泣き寝入りしない女性労働者のパワーが魅力的でした。
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