練馬区立美術館で開催中の香月泰男展を観に行きました。先月に続いて2回目です。
年譜によれば、香月泰男は1911年に生まれ、1938年に結婚。3人の子どもが生まれた後、1943年に軍隊に召集され(その際、絵具を持って入隊)、満州に送られ同地で敗戦を迎えました。しかしソ連軍に武装解除されてシベリアに。ラーゲリ(強制収容所)で約2年間抑留されました。氷点下30度の厳寒下での過酷な労働と乏しい食事。最初のラーゲリでは10人に1人の割合で死者が出たそうです。帰国してから10年近く経った1956年頃から亡くなる1973年まで、シベリア抑留と軍隊での体験を57点もの作品に描きました(のちに「シベリア・シリーズ」と言われました)。体験のエッセンスが発酵するのに10年かかったということでしょうか。
こうした過酷な体験は早く忘れたいと思うのが普通でしょうが、ラーゲリ―での仲間の死に顔を「キリストのように美しかった」という香月は、57点の作品に本当にたくさんの顔を描きました。死んだ仲間の鎮魂のために、そしてこの体験を忘れないため、さらに後世に伝えたいために。その表現は西洋の物まねではなく、体験を伝えるためにどのような構成、色、マチエール(材質)が相応しいかを徹底的に考え抜き、何度も何度も習作を重ねたそうです。今回の展示会にはシベリア・シリーズ57点中55点が展示されています(同シリーズ以外にもたくさんの作品が展示されています)。シベリア・シリーズの作品はいずれもサイズが大きく(50号が34点、100号が19点)、作品を観終わって、その表現力に圧倒されてへとへとになりました。
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